2012年7月16日月曜日

ワインの酵母

ちょっぴりワイン醸造の裏話を。

ワインという飲み物は「ぶどうをアルコール発酵させてできたもの」ということは、ほとんどの人が知っていると思います。しかし「ワインのアルコールはどうやってできるのか?」と聞かれたら、答えられない人もいるのでは?

ワインのアルコールはぶどうの糖分から発生します。ぶどうがよく熟していればそれだけ糖度があがり、よってアルコール度数も上がります。そのため、フランスワインの中でも、太陽をいっぱい浴びてよく熟した甘いぶどうができる南の暑い地域(ラングドックや南コート・ドュ・ローヌ、プロヴァンスなど)の方が、涼しい北部や山間部(シャンパーニュやアルザス、サヴォワ)よりもアルコール度数が高くなる傾向にあるのです。(その他、品種などにもよりますが。)

さて、ぶどうの糖分は、酵母によってアルコールに変身します。といっても、酵母が勝手に働いてアルコールをつくってくれ、放っておけばワインができる、というわけではありません。色々な酵母があるうえ悪影響を与える雑菌もあり、下手をすると飲めない液体になってしまいます。なので、ワイン醸造家は、発酵の課程で脇道にそれないようによく見張り、もしアクシデントがあればそれなりの対処をしなければなりません。しかし、対処できないケースもあり、下手をすればすべてがパアになる恐れもあります。

こうしたリスクを避け、確実にワインを造るための裏技(というか、今ではほとんどの大量生産ワインでは行われていること)があります。それは、ぶどうについている自然の酵母ではなく、醸造家向け専門店で売っている乾燥酵母を使うこと。これは「選出された」酵母とも呼ばれます。この「有能な」酵母は、他のすべての酵母(ぶどうについている自生酵母)の働きを抑え、アルコール発酵に一役買ってくれるのです。

乾燥酵母が必要な理由がもうひとつあります。特に、ぶどう栽培の課程で駆虫剤や除草剤などを使った場合です。虫や草と一緒に自生酵母も殺してしまう可能性が多く、農薬を使って栽培されたぶどうでは自然発酵が難しくなります。確実に発酵を得るには、人工的に手を加えること、すなわち乾燥酵母を添加することが必要になるのです。

乾燥酵母にも色々と種類があります。専門店サイトで見ることができるのですが、品種特有のアロマを活かす酵母などがあり、生産者は好きなものを選ぶことができます。これを活用すれば、別の品種でも流行のアロマを与えることもできるようです。また、ビオ(オーガニック)のブームにのって、ビオ認定の酵母もあります。

醸造過程で酵母を添加するというのは、意外と知られていない事実のようです。ワインアドバイザーの講座を受けていたとき、醸造課程についての講義でこの話が出たのですが、ほとんどの学生がそのとき初めて知って驚いていました。

スーパーなどでよくみかける、安価で品種を前面に出して品種特有のアロマを売りにしているものは、こういう人工酵母を使っているのだろうなあと思います。

乾燥酵母のおかげで、たしかに無難にワインを造ることができるでしょう。でも、ぶどうが育てられた土地でついた自然酵母は一切抑えられてしまいます。どこかしら個性の欠けたワインになったとしてもおかしくないのでは…と疑問に思ってしまいます。

もちろん、自然酵母だけでワインを造る生産者もいます。むしろ、オーガニック・ムーブメントで、そういう自然派の生産者が増えてきているようです。(といっても、私はこの流行に少し懐疑的なのですが…。その話はまた別の機会に。)

しかし、農薬を使わず、乾燥酵母に頼らない…化学の進歩でラクできることを知ってしまった現代、そんな風に手をかけてワインを造るのはどれだけ大変な仕事でしょうか。黒く荒れた手で自らワインを配達に来る生産者さんに会うたび、私もがんばろうという気持ちになります。

0 件のコメント:

コメントを投稿