2012年8月7日火曜日

ワインの酸

ぶどうの収穫のタイミングは、ワインのアルコールと甘みの土台となるぶどうの糖分にとって非常に大切ですが、同様にワインに欠かせない酸味にも影響します。ぶどうが熟しすぎると、糖分と反比例して酸味が失われてしまうからです。

酸味はワインを支える、言わば骨格のようなもの。
例えばテイスティングのとき、白ワインなら酸味と甘み、そしてアルコールという三大柱のバランスが問題になります。大雑把に言ってこの三つの要素から構成されていると考えれば、白ワインにおける酸味の役割はとても大きいということがわかります。「辛口白ワイン」というと、「辛い」というより、甘口の反対、つまり甘みとアルコールの与えるまろやかさが少なく酸が多い白ワインなわけです。しかし甘口の白ワインであっても、酸がまったくないわけではありません。酸味のないワインは美味しく感じられなくなります。べたつくように甘ったるかったり、しまりがなく重い印象を与えてしまうのです。
赤ワインには、これにタンニンが入ってくるので、味覚のバランスはもう少し複雑です。赤ワインだと様々な香りやタンニンに気を取られ、白ワインよりも酸味についての評価が忘れられがちですが、タンニンは酸味につられて強く感じられることもあり、赤ワインにおける酸も実は重要な要素なのです。

ワインに含まれる酸にはいくつか種類があり、主要なのは酒石酸、リンゴ酸、クエン酸です。酒石酸はほとんど変化することがなく、一番安定した酸なのですが、急激に冷やされると塩のような塊を形成することがあります(無害です)。リンゴ酸はマロラクティック発酵によって乳酸に変化します。多くの場合、これはバクテリアが働いて自然に起こる現象ですが、この発酵で酸の質と量が変化しワインがまろやかになるため、きりっとしたワインを作りたい場合はSO2(二酸化硫黄)を投入して抑制します。(ただし、赤ワインの場合は、マロラクティック発酵によって酸とバクテリアを変化させないとその後の保存期間中に問題が起きる可能性があるため、必須です。)クエン酸は、多くのフルーツに含まれていて、レモンの酸味として有名です。でも、ぶどうにおいては少ない酸です。また、ぶどうの熟成が進むと急激に減ります。
酒石酸、クエン酸、その他いくつかの酸は、ワイン醸造中に添加することが許可されています。

ワイン醸造は本質として化学的なところがあって、様々な要素(例えば酸とバクテリア)の結合反応、空気やアルコールとの接触などで、味や質に影響が出てきます。そこで、現代的技術を使って醸造中に色々と手を加え、保存状態に左右されない安定したワインや、好みの味のワインを作ることもできるのです。

先日、ラングドック地方のドメーヌの方がうちのワイン屋に見本を持って営業に来たのですが、それをテイスティングした店主が真っ先に「現代的なワインだね」と一言。ドメーヌの方は「酸化防止剤も入れていないし、醸造中のワインには一切手を加えていない、ナチュラルなワインです」と説明していましたが、彼が帰った後で店主は「あの地方であの酸味はおかしいだろ」と。たしかに酸が妙に際立っていて、よく味わうと小粒のよく熟した赤いフルーツのような果実味が後から感じられるのですが、どこかバラバラな印象でした。店主によれば「あの酸は自然な味ではないから、ドメーヌの人には悪いけど、酸を加えているに違いない」とのこと。どちらが正しいのか私にはわかりませんが…そういうこともあるのだなと正直驚きました。

近年、熟しすぎたくらいのぶどうで作られた甘く濃厚でアルコール度の高い赤ワインが流行で、酸味は軽視されがちだったようです。でも、酸味はエレガントさ、爽やかさを与えてもくれます。ワインにとって酸はなくてはならない存在なのです。ぶどうの収穫は、熟成度による糖分と酸(赤品種ではそれに加えてタンニン)のバランスを見極めて行わなければならないわけですが、糖度や果実味の凝縮度を求めていたら酸が足りなくなり、後でごまかす…そんなこともあるかもしれません。

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