2013年5月14日火曜日

Rosé etc. (ロゼ、エトセトラ)

パリに戻り、ワイン屋に復帰してはや3週間。意外とすんなり場に戻れて、常連さんにも忘れられてなかったみたいで嬉しい。
そして、ブランクを埋めるべく…というわけではないのですが、毎日のように楽しくワインを味わってます。

さて、4月下旬から5月の初めにかけては、お天気も良くシャツ一枚で出かけられるくらい気温の上がった日もありましたが、曇ったり日が陰るとまだまだ肌寒く、春コートも手放せない今日この頃のパリ。5月11、12、13日をSaints de glace(サン・ド・グラス)と呼び、これを過ぎると霜のおりる心配もなくなると言われていて、この時期以降にトマトやズッキーニなどの農作物を植えるのが良いとされているそうです。なるほど、日ものびて、夏が近づいてきたのを感じます。

そのせいか、お店では目立ってロゼを求める人が多くなりました。別に寒いときだってロゼを飲んでも良いのですが、なんとなく一般的に「ロゼ=暑い日のアペリティフ」というイメージがあるみたい。逆もしかり、夏にはロゼが飲みたくなるもの。
かくいう私も「ロゼが飲みたい」気分に触発され、ロゼを色々飲みました。

Les Foulards Rouges (Jean-François Nicq) "La soif du mal" rosé 2011
レ・フラール・ルージュ(ジャン=フランソワ・ニック)の「ラ・ソワフ・ドュ・マル」ロゼ、2011年。約一年ぶりに飲みました。知人によると下り坂の時期もあったようですが、一年前に飲んだときとあまり変わっていない印象。ヨーグルトっぽい酸味と空豆みたいな苦みが特徴。典型的なプロヴァンスのロゼとはほど遠い。どうしてか自分でもよくわからないけれど「あー、カリニャンだ」って実感しました。小粒ベリーの風味からかな。
ちなみに、「ラ・ソワフ・ドュ・マル」は白と赤もあります。
そしてこれはオーソン・ウェルズの映画のタイトル(日本語だと「黒い罠」)。レ・フラール・ルージュには他に「Glaneurs」「Glaneuse」、「Zéro de conduite」、「Frida」など、映画のタイトルと同じキュヴェ名のワインがあるので、ジャン=フランソワ・ニックはもしかして映画ファンなのかも。

La Grande Colline (Hirotake Ooka) "Le Canon" rosé
別の日に、ラ・グランド・コリーヌ(大岡弘武)の「ル・カノン」ロゼ。夫が出かけたついでに寄ったカーヴで買ってきてくれました。ヴィンテージも品種もわからず…。
色は、ロゼというより濃い白に近い感じ。意外と甘みがあり、飲みやすい。でも、ビールのような独特の苦みが段々と出てきて、やっぱり個性的。
正直言って、飲み慣れていないせいか、私はロゼって一般的にどう判断してよいのかよくわからないんですが、これはロゼという枠など取り払ってただ素直に美味しいと感じられて、こういうワインが大好きです。

Les vins contés (Olivier Lemasson) "Pow Blop Wizz" 2011
またまた別の日に、レ・ヴァン・コンテ(オリヴィエ・ルマソン)の「ポウ・ブロップ・ウィズ」2011年。スパークリングです。品種はグロローとピノ・ドニス。
シェバム!ポウ!ブロップ!ウィズ!
…というのがセルジュ・ゲンズブールの「comic strip(コミック・ストリップ)」の歌詞の一部なのですが、やっぱりそこからとっているのでしょうね。名前からしてはじける感じ。
甘いけれど度が過ぎず、ラズベリーやイチゴといったベリー系フルーツが口いっぱい広がり、本当に飲みやすい。あまりこういう言い方は好きではないのだけれど、女性にウケそう。ラベルもかわいいし、アルコール度数も11度と低めだし。王冠なので栓抜きで開けられる手軽さもあり、晴れた日のピクニックにもってこい。夏が待ち遠しい!

2013年5月8日水曜日

今日のワイン:Sébastien Bobinet "Greta Carbo" 2011 + 無手無冠 @ Autour d'un verre

パリに戻って早々、飲み仲間のYとSに連絡。いつものケヴィンのお店、オトゥール・ダン・ヴェールに早速ご飯を食べに行きました。

4月の下旬にさしかかったパリは、陽気が良く、日も延びて夜の8時半でもまだまだ明るい。ちょっと遅れて到着したら、すでにYとSがお店のテラスで飲み始めていました。私たちも白ワインをグラスでいただいて、3ヶ月ぶりの再会に、お互いの近況報告で話に花を咲かせました(ワインは何だったか忘れてしまった…)。

さすがにお腹が空いてきて、9時過ぎにやっとテーブルに。
私は前菜に白アスパラガス、メインは豚の肩肉煮込み、ジャガイモのピュレ添え。

Sも私と同じ豚肉、Yと夫は子牛肉。それに合わせるのに軽めの赤が良いねってことで、色々悩んだ末、目についたコレに決定。
セバスチャン・ボビネの「グレタ・カルボ」2011年。
ロワール地方のソミュール・シャンピニーのワインで、品種はカベルネ・フランです。
マセラシオン・カーボニックで造ったんだなというのがわかりやすいネーミング。男性陣は特にこの名前が気に入ったらしい…。あの女優さんになにか特別な思い入れでもあるのか…?
みんなは「美味しい」と、とても満足そうだったけど、私としては「うーん、思ったより酸がたってるなー…」という印象でした。まだ若いせいかも?(多分、蔵から出されたのはつい最近だと思うし。)でもとてもフルーティで口当たりは本当に軽いので、暑い季節に飲むのによさそう。

夫とSはデザートも追加。うう、美味しそうだったけど、私はもうお腹いっぱいで入らない〜…と、断念。
夫の注文したフランボワーズのタルト

さて、最後に、ケヴィンの承諾を得て、日本からおみやげに持ってきたお酒を開け、みんなで味見。
「無手無冠」と書いて「むてむか」。焼酎もつくっている高知県の酒蔵さん。
生酒はふつう要冷蔵ですが、パリまで運ぶ間中も低温保存するのは難しいので、酒屋さんに「常温でももつ(だろう)生酒」を選んでもらいました。
これは骨太なお酒!なるほど、ワインも、タンニンや酸などワイン自体を維持する要素が多く含まれているタフなものだと、多少難のある保管状態でもダメになりにくい。ワインも日本酒も、繊細なつくりだとこわれやすいということなのでしょうね(それは人間でも一緒か?自然の摂理?)。
昆布のような旨味、それと同時に磯っぽい風味。でも甘みが多く、かなりふくよかなお酒。
YもSも「こんなサケ(フランス語で日本酒は『saké』で定着しています)は初めて!」と喜んでくれたけれど、その他、酸すっきりの白ワインが大好きな人たちにはウケなかった…。まあ味の好みは人それぞれです。
キャップのデザインがカッコイイ。

2013年5月7日火曜日

今日のワイン:Jean-Pierre Robinot "Fêtembulles"

今日の…というか、パリに帰ってきた夜に開けたワイン。


ランジュ・ヴァン(ジャン=ピエール・ロビノ)の「フェッタンビュル」。多分2010年…かな。
フランス語で「fête」とは「パーティー」という意味、その後に続く「bulles」は泡。なので、パーティー気分なスパークリング、または、スパークリングにパーティ気分あり、というところでしょうか。

たまたま手の届くところにあったので…という理由ですが、同時に長い旅が終わってちょっとお祝い的な気分で。
品種はシュナン、辛口でフルーティ、口当たりは軽め、泡はシャンパーニュほど細かくないけれど粗すぎず。アペリティフにもってこい。真面目な堅苦しさとか辛気くさいところが全然なく、肩の力を抜いて単純に楽しむべきワイン。
時差ぼけでだるかった体に眠気覚まし、スキッと体にしみ通って、しゃんとなりました。
正直、京都滞在が楽しかっただけに後ろ髪をひかれる思いもあったのですが、「あー美味しいワインがこんなに気軽に飲める〜、フランスに戻ってきたなあ〜」と幸せを感じる一杯でした。

2013年5月5日日曜日

京都の酒屋さん

 京都に滞在していてとき、ワインより日本酒をよく飲んでいて、借りているアパートの近くの酒屋さんにたびたび伺いました。

そのお店はわりと大きな通りに面していて、何度も前を通ったはずなのにしばらく気がつきませんでした。休業日だったり夜遅かったりしてシャッターが下りていたせいかもしれませんが、古風な引き戸がきちんと閉じられた慎ましい佇まいで、通りの雰囲気にすっかり溶け込んでいたせいもあるかもしれません。あるとき、「日本酒」と掲げてある看板に気づき、店頭に目を落とすと「◯◯にごり酒入荷」などと墨の手書きで宣伝してあって、生酒(火入れしていないお酒)ばかりを探していた私たち夫婦は「ここならあるかも!」と期待をふくらませて訪ねてみました。看板には「個性豊かな」という形容詞もつけられていたのですが、それまで酒屋を見つけるたび中をのぞいては生酒を扱っていなかったりどこでも置いているお酒しかなさそうだったりしてがっかりしていたので、半信半疑で来店。ところが中に入ってみると、小さな店内の片側ほとんどが冷蔵庫で、生酒らしきお酒がいっぱい入ってる!それも種類が豊富。迎えてくれた若い女性は、親切にいろいろとわかりやすく説明してくれて、好奇心の強い夫が「赤い日本酒というのを聞いたことがあるんだけど」と質問したら、レジ裏の隠れた棚に案内してくれ、赤い日本酒や十年以上の古酒などを見せてくれました。印象的だったのは、精算時に銀のそろばんで計算していたこと。そろばんなんて本当に久しぶりに見たなあ…。

二度目か三度目に行ったとき、やや年配の男性が店番をしていました。どうやら女性のお父さんらしく、彼がお店のご主人のようでした。しかし、頑固そうな雰囲気を醸し出していて、極端に口数が少ない。味や値段など、こちらの要望を伝えると、冷蔵庫の前でちょっとの間逡巡した後、一本取り出して無言でレジに置かれました。そのお酒に関する説明一切なし…。そこで何か質問でもしたら怒られそうな気がして、勧められたものを素直にそのまま買いました。支払った後は、買った瓶を袋に入れてくれる様子もない。なるべくレジ袋をもらわないように買い物袋を持ち歩いているのでそれでも構わなかったのですが、いまどき「袋は必要ですか?」とも問われないことに内心びっくり…。

その後も何度か再来店しましたが、正直言って、寡黙なご主人だとなんとなく気詰まりなので「娘さんが店番だといいなあ」と思っていました。でも、そのうちに、ご主人も顔を覚えてくださったようで、また、私たちが本当に日本酒に興味があることを感じとられたらしく、段々とお話してくださるようになりました。
あるとき、ワインの棚を見ていたら、オーガニック・ワインについての本が置いてあるのに気づき、つい興味をひかれて見本をぱらぱらとめくっていたら、ご主人がその本の著者がインポーターさんであることなどを説明してくれました。そこで「実は私はパリのワイン屋で働いていて…」と打ち明け、ワイン生産のことなどをお話していたら、ご主人は「ちょっとこんなもの、失礼かもしれませんが…」と言いおいて奥の方へ姿を消し、しばらくして小冊子を手に戻ってこられました。それはお店の百周年記念につくったもので、それまで店頭チラシにしていた酒蔵訪問記をまとめたものでした。まだ数冊残っているのでプレゼントしてくださるというのです。
ありがたく頂戴し、家に帰ってまえがきを読んでみて、このお店のことがいろいろわかりました。

現主人は三代目。つまり彼のお祖父さんが開業し、今年で110年を迎えるお店。
二代目から本格的に日本酒に力を入れているとのこと。
また、二代目は、自動販売機が普及しだした時代にあって、お酒を勝手に売る機械なんぞは絶対に置かないと決めたそう。これは未成年に対する酒類販売の問題があることを考えると正論だったと当主も感心しています。

それで思い出したのですが、以前、うちのお店に子供が二人(14、5歳の女の子と10歳くらいの男の子)、ワインの瓶を持ってきて「開けて」と頼まれたことがありました。店主はワインオープナーを手にまじまじと子供たちを見て「誰が飲むの?」と聞き、子供たちは「大人」と答えましたが、「じゃあその大人に持ってきてもらって」とそのまま抜栓せずにワインを返しました。たしかに、未成年にアルコールの瓶を開けて渡すというのは無責任。店主の冷静な判断にはっとさせられ、「私だったらよく考えずに開けてしまったかもなあ…」と思うと冷や汗でした。

誰に何を売るのか、お客さんが何を求めているのかを考え、扱うものに責任を持つ、それはワイン屋として当然のことだと、私は思います。でも、どのワイン屋も同じように考えているかはわかりません。
また、ワイン屋の外を見てみれば、消費者はスーパーで買って済ませることもできます。それは日本の酒屋も同じ。大手メーカーのビールやお酒なら、自動販売機やコンビニで事足ります。ワイン屋や酒屋が必要なくなるのは、消費者がお酒を飲まなくなるときではなく、飲むもの自体に対する興味がなくなるときなのではないかと思います。この業界が「どれを飲んでも同じ」という印象を与える画一的なものしか提供できなくなれば、また、たった二三の主流スタイルが他に選択の余地がないほど幅をきかせれば、受け身姿勢の消費者の好奇心や興味は起こらなくなり、結局、ワイン屋や酒屋は少しずつ消えていくのかもしれません。
逆に、もし好奇心がわいて、自分の好みにあったもの、美味しいと思えるものをちょっと探してみれば、色々な発見があるはず。実際に今回、その酒屋さんのおかげで、私たちは今まで知らなかった面白いお酒に出会うことができました。有機米だけでつくったお酒や、まだ発酵しているどぶろく、生産数の少なくなった生もと造り…。そして、同一の米と水をベースにしながらも違う酵母でつくられた二種類のお酒を飲み比べたり、注意書きがこまごまと表示されている活性にごり酒を浴室で大騒ぎして開けたり(結局、全く噴き出さずに済みましたが)、楽しかったです。
なんと精米歩合100%
…って、つまり精米していない、
玄米から造られたお酒!
いただきもの。
まだ開けていません。

もしまた京都に滞在することがあれば、どんなに遠くても、あのお店に日本酒を買いに行くだろうと思います。
そういえば、うちのワイン屋も、以前自分が客だったとき、住まいから離れているのにも関わらずわざわざ買いに行っていたのでした。実際お店で働きだしてから感じたのですが、近所に住んでいる常連客が多いけれど、遠くから来店されるお客さんも少なくありません。きっとあの酒屋さんにもそんなお客さんがいっぱいいるだろうという気がします。なんとなく共感できるところの多い酒屋さんでしたが、そんな点でもうちのワイン屋と似たところがあるように思いました。

でも、なるべくレジ袋を減らすようにして、その代わりオリジナルの買い物袋や風呂敷、風呂敷の包みかたの本を売っていたり、空の一升瓶は引き取ってくださって(昔からそれは当たり前のことですが、馴染みのお店ができる前は資源ゴミに出していたので、そんなこともつい忘れていました)、「四合瓶もリユースできるように規格を統一するよう働きかけているが、なかなか聞き入れてもらえない」というお話なども伺い、なるほど、うちのワイン屋やフランスのワイン界もそうしたシステムの点などでまだまだ考えるべきことはあるんじゃないかなあと思いました。

小冊子のまえがきには個人史的なことにもふれてあって、ご主人は庭園に興味があるらしく、有名な庭師の弟子をしていたお友達がいて、その人にお店の裏の自宅部分に小さな中庭を造ってもらったということが書かれていました。私の夫も庭園が好きで、京都ではお寺などもずいぶん見てまわったということをお話をしたら、なんとご自宅のお庭を見せてくださいました。手水鉢の水面には花が浮かせてあり、三尊石も配置され、地面も苔にきれいに覆われて、小さいけれど立派なお庭でした。縁側に座布団を出してくださり、しばしそこに座ってお庭を眺めていると、花の咲いている梅の枝に鳥が一羽舞い降りて、夢のようなひとときでした。

こんなお店に出会えて、本当に良かったです。京都滞在の一番の収穫だったと思います。